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ガンコ一徹が支持されるお店

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「お客様は神様です」
言い古された言葉ですが、この言葉の前には自然と
したがってしまうような重みのあるものになってしまいました。
たしかに、お客様を大切にするという心は必要です。

「でも、飲食店のそれと小売業のそれとは、それが
微妙に異なっているのです。」

こう提言するのは『流行る店』(日経BP)の著者、吉野信吾氏です。
氏の言葉を拝借して説明するならば、
小売業はメーカーが開発した製品を「販売する」ことの一点に
商売の根本がある。つまり、どこの店でも売っている品物は
同じということ。
一方、飲食店はそもそも他のお店とは違う製品をいろいろな
工夫によってさらにセレクトされた商品として提供している。

例えば、お客さんが1万円を支払ったのであれば、その1万円に
見合う製品を提供するとともに、至福のひとときと最高の満足感を
自分だけのの商品によって与えることできればそれでいいというのです。

言い換えれば、「お客様は神様です」というおもてなしの気持を
ありあまるほど持っていたとしても、それだけではお客さんは
満足してくれないということです。
極端に言えば、そんな気持をまったく持っていなかったとしても、
お店が持っている要素にお客さんが120%満足しているなら、
必ずひいきにしてもらえるということです。

一見、「おもてなしの気持」も「内装」も「味」もたいしたことがないのに、
常連客がちゃんとついている。
そんなお店があなたの周りにもあるのではないでしょうか?

では、吉野氏の本の中から、ちょっと想像を超えるそんなお店を紹介してみましょう。
あなたのお店が、もしもこのような店でであったら、きっとたのしいですよね。


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そのお店は東京は神楽坂、毘沙門天前の路地を少し入った
右手にあるそうです。
お店の名前は『伊勢藤』。昭和12年創業の瓦葺屋根の造りです。

お店の形態は「居酒屋」ですが、私たちがこの言葉から
イメージするような形態とは全く違った、伝統的なお酒処という風体です。

では、イメージできるように詳しくお話ししてゆきます。

お店に入って席に着くと味噌汁とお通しのセット、一汁四品が
目の前に運ばれます。
お品書き(メニュー)には、「えいひれ」「たたみいわし」「明太子」と
いったお腹にたまらない塩気の強い、まさにお酒のつまみが
ラインアップされています。

店の中奥に位置する2畳ほどの畳の間には、酒の燗付けのための
炉があり、ご主人は適温の燗付けに余念がありません。

お店にはクーラーが設置されていないので夏場ともなれば極めて
暑く、居心地は決してよくはありません。

そして看板のお酒の種類と言えば、あるのは日本酒、
それも銘柄は『白鷹』のみです。
これを絶妙の一肌のぬる燗でいただくのがこのお店の
真骨頂というわけです。
当然、他のお酒は一切頼むことはできません。

今時考えられないほどのがんこ一徹の「酒道」を闊歩しているお店です。

そこがそのようなお店とは知らずに入ってきたお客さんが、
席に着くなり「ビール!!」の一言を口にします。
すかさず、店主は「申し訳ございません。ビールは置いてございません」と答えます。
こう答えられたお客さんはほとんど、「えっ、ないの」と口からポロリ。
すると、カウンターに座していた常連客は、「このド素人が」と
言わんばかりの冷ややかな一瞥をそのお客さんに送るのです。
そして、そのお客さんはすごすごと退散という結末。

若い女性同士や同伴のお客さんが、お酒を飲むのもそこそこに
おしゃべりに花を咲かせていると、ビシッと注意されます。
このお店には、「静かに飲めなきゃ帰ってください。当店は
お酒を静かに楽しんでいただくお店。会話は節度を持ったトーンで
行うべし」といった暗黙のルールというものがあるのですよ。

さらに、注文の仕方にもきまりがあります。
このお店では、お銚子は一人2本まで。それを飲んだらさっと
帰るのが基本なのです。
ですから、それを知らないお客さんも、周りから冷たい視線が
浴びせられるのです。
これは、お店側の回転を常連客同士が心掛けてくれているわけなのです。

極めつきは、トイレの場所。
この店のトイレは実にわかりにくいところにあります。
そこで、「すいません、トイレはどこ?」なんてお店の主人に
聞こうものなら、これまた他の常連客の「なんだこいち、初めてか?」
という視線にさらされるのです。

このように、お店側とお客さん側が互いに築き上げてきたルールによって、
お店は営業されているのです。

ちなみに、この『伊勢藤』、値段は高くありません。
お銚子2本と一汁四品のお通しセットで3000円弱といったところです。
最も難しいとされる人肌燗の燗付けは鉄瓶のお湯の中で施されます。

お店は、そうした職人気質を楽しんで理解してくれるお客さんと
長く付き合っていきたいと願っていますし、お客さん自身もお店の
そうした姿勢に対して「ひいき心」を持つのです。

お互いに「持ちつ持たれつの関係」をつくるには、
「誰でもいらっしゃい」のお店では難しいかもしれません。
むしろ、あえて敷居を高くすることによって初めて納得のいく
店づくりができることもあります。

こんな店づくりの方法もあると、覚えておいてください。





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