「ほう、それじゃあ、収入はゼロ。それで良く3年も暮らしていけましたよね」
「ええ、私のところには話はなかったのですが、他の弟子たちのところには
『働かせてもらいたい』って言っていたようでした。もっとも弟子は親父さんを
使うなんてできやしませんよね。それで奥さんが近くのお店にパートで雇って
もらってなんとか生活をしていたみたいですね」
「ご主人、今日お話をしておきたいのは、このように料理人さんが、遠い将来に
向かえてしまうかもしれない最悪のシーンなのです」
「えっ、私も、親父さんみたくなってしまう、ってことですか?」
「ならないって自信ありますか?」
「・・・・・・」
「ご主人、勤めている料理人さんでも世間並みの金額を退職時にもらえる人は多く
ありません。ましてやご主人のように自営の人はゼロです。しかし、料理人にも
賞味期限はあります。今でこそバリバリに仕事をしていますけど、50歳を過ぎれば、
あっというまに“食えない料理人”になってしまいます。今はご主人の魅力で来店
してくれたお客様もそれぞれが同じように歳をとり、そうそう外食もできなくなって
きます。かと言って、代わりに若い世代に目を向けても、今度は自分と話が合わない
のですよね」」
「・・・。何か、考えたくもないことですね」
「ええ、でもそんな時期は必ずやってきます。そしてきっと包丁を納めることになる
でしょう。それは即収入ゼロの始まりということです。でも、それでも日々の生活は
続きます。将来の物価は予想できませんが、仮に月の生活費が20万円として年間
240万円、5年で1,200万円、10年で2,400万円の生活費が必要ということになります。60歳でリタイヤしたとして10年たっても70歳ですよ。その時まだ生きていたとしたら、もっと生活費がかかるということです」
「考えたくなかったのですが、計算してみればそうなりますよね。でも、70歳じゃ、
今ではまだ初老ですよね」
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